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名作文学いらっしゃいまし
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和田 英『富岡日記』(みすず書房・2011.02・初出1908・初版1934) 

まったく知りませんでした、この『日記』のことを。
新聞の書評欄を見て、その存在を初めて知った次第です。

製糸工場の女工さんといえば『女工哀史』だと思っていましたが。
最初期に、こんな素晴らしいエピソードが眠っていたなんて!
何だか、もう、ひたすら驚くばかりです。

以下、ビーケーワンに投稿した書評です。


  明治5年(1872年)産業近代化の基幹となる、官営富岡製糸場が開業した。本書は、開業翌年に製糸工女となった当時17歳(数え年)の和田英(わだえい)の回想録である。

 国は各地で工女を募集したが、なり手は少なかったという。指導にあたる御雇外国人に、生血を吸われるの、油を搾られるの、と噂になったためである。風評被害の有様は、明治も今も変わらないようだ。
著者の父親は旧士族で、当時は地域の区長であった。誤解を解くために、まず自分の娘を工女にする。「お国のため、天下のため」の工女志願であった。

 英は、芯が強く努力家で、仕事の飲み込みが早かった。仲間のリーダー的存在となり、製糸場側からも信頼される。こうした、いきさつや製糸場内の様子、仕事の流れや日々の暮らしが、的確な表現と美しい文章で流れるように綴られる。初めて糸繰場に入った際の感激は次の通りだ。

 「私共一同は、この繰場の有様を一目見ました時の驚きはとても筆にも言葉にも尽くされません。(中略)台から柄杓、匙、朝顔二個皆真鍮、それが一点の曇りもなく金色目を射るばかり。(中略)一同は夢のごとくに思いまして、何となく恐ろしいようにも感じました。」(14頁)

 維新の勝ち組、長州の工女たちが優遇されることに怒って泣いたり、御雇外国人の妻のドレスの美しさに目を見張ったり、そんな若い女性らしい感情の高ぶりさえも、英は少し距離を置いて冷静に観察し巧みな描写で表現する。聡明で賢い女性であったのだろう。

 富岡で働いた誇りを胸に、英は故郷の製糸工場に移り、指導者として活躍する。幼い工女たちの指導に喜びを感じ、家族の支えに感謝を惜しまない英。その姿はたのもしく、精神的な成長が感じられて嬉しい。彼女は23歳で結婚し家庭に入るまで仕事を続けた。当時の女性としては異例のキャリアだろう。

 30数年後の回想があまりに精緻で理路整然としていることに多少、違和感は感じる。しかし、賢明な彼女のことだ。輝かしい思い出を心の宝箱から取り出しては矯めつ眇めつして、記憶が古びなかったのであろう。大切な記憶はひとりの女性の生涯を支えた。

 製糸工女といえば『女工哀史』や『ああ、野麦峠』の悲惨な状況が思い浮かぶ。だが、この回想録は、全く別の一面があったことを教えてくれる。歴史史料としての価値が高いのはもちろんだが、激動の明治初期、ひとりの少女の成長物語としても楽しめる貴重な記録である。今後も永く、読み継がれて欲しい一冊だ。

(2011.06.13 ビーケーワン投稿 1037字)


マイ・ルールで800字以内と決めたのに、いきなりオーバーしています。すみません。
力不足で、どうしても、これ以上はタイトにできませんでした。

それにしても、びっくりです!
技術を覚えてもらって、その後、各地の製糸場で指導してもらおうという、目論見があった最初期の女工さん。
御雇外国人の風評被害もあり、良家のお嬢さまがメイン。来てもらっただけでありがたがられ、利益度外視の高待遇、夢のような女工ライフ。
この記録が残っていることがキセキなら、その事実もまたキセキです。

本文中でも少し触れましたが「?」な点もある、この「日記」。
まあ、三十数年後の回想ですし、思い出が美化されて、都合が悪い部分は忘れてしまうのは仕方がないとも言えます。しかも、病床の母親を励ますために書かれた(それも後付かな?)ということですから、なおさらです。
戦前には、長野県小学校修身副読本に採用されていたそうです。

後半、英は国元の製糸場で指導者として働くわけですが、ちょっと経営側に同情してしまうような場面もありました。やたら「富岡式」を主張し、よそから来た技術者のやり方を拒否して集団職場ボイコット(日本初の女工ストライキかも?)したり……。これは経営側としては扱いにくい。
これでは、プライドの高い令嬢ではなく、貧しくて前借金で縛り付けて文句言わせず酷使できる身分の女性の方がいい、という流れになってしまうのも理解できます。でも、こうした点もまたこの「日記」の貴重な一面です。
この「日記」の価値は決してゆるぎません。

余談ですが「富岡製糸場*世界遺産推進ホームページ」に、和田 英と『富岡日記』が紹介されています。工女姿のキャラクター「おエイちゃん」が愛らしい!
当時そのままの姿が保存されている富岡製糸場、一度は訪れて『富岡日記』の世界を感じてみたいです。




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導在 あわい

Author:導在 あわい
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