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名作文学いらっしゃいまし
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松本清張『或る「小倉日記」伝』改版(新潮文庫・2004.05)

2011年初春、この作品を読んで涙ダラダラの鼻水ぐしょぐしょになり、この思いを書き残しておこう、と思ったのが書評を始めたきっかけです。
眠っていた読書魂を揺り起こし、書評という新たな表現の可能性を開いてくれた、わたしにとっては記念碑的な作品。

でも、そんなふうに思い入れが強すぎると、あれもこれもと思いすぎてなかなかまとまらないもの。
思うような書評にならず、ずっと手を入れながら寝かせていましたが、やっと書き上げることができました。

以下、ビーケーワンに投稿した書評です。


 著者はこの作品で昭和28年(1953年)に芥川賞を受けている。
社会派ミステリーで知られる著者が、直木賞ではなく芥川賞を受けていたことは驚きだ。

 軍医だった森鴎外は、福岡県の小倉に赴任していた時代の日記を残している。
この小説は、実在の人物をモデルに、そのエピソードをからめたフィクションだ。

 小倉に生まれ育った田上耕作は、生まれつき身体が不自由だが頭脳は明晰で優秀だった。
鴎外の小倉時代の日記が紛失状態となっていることを知り、その足跡をたどる作業に取り掛かる。
それは彼の生きがいとなり、寄り添うように生きる彼の母親の生きがいにもなって行く。

 誰も彼も、何かをしていなくては生きていられない。
耕作は、当時の鴎外を知る関係者を探し出し、取材を重ねるが、それは楽なことではなかった。
「こんなことに意味があるのか」常に自問しながら、不自由な身体を酷使し、人の嘲笑を受け、悩み苦しみながら歩きまわる。そうせずには、いられないのだ。
「生」が与えられている間は精一杯に生きる。人間として、というよりも一個の生物としての使命。そんな当然のことをあらためて考える。

 戦後の混乱を経て、耕作は志半ばで病に倒れ、作業は頓挫する。
彼の研究は水泡に帰したのだろうか?そうは思いたくない。
むしろ、第三者の検証がなされたことで、鴎外の『小倉日記』の意義をますます高めることに貢献した、と言えまいか。そう思いたい。

 当初、ここで書評を終えるつもりが、再読して読み落としを見つけた。
ラスト近くのさりげない一文で、耕作の草稿の行方が明かされる。
彼の生涯をかけた研究の成果は、風呂敷に包まれて、どうなったのか。
彼は「むなしいこと」をした、と著者は明らかに意思表示している、と感じた。

 わたしの「希望的見解」は打ち砕かれた。だが、不思議と落胆はない。
本人には意味があり大事なことでも、世間では評価されないことが圧倒的に多い。
人が生きている間の行為のほぼすべては、風呂敷に包まれたまま、ほこりをかぶって朽ちていく運命なのだ。
「でも、それでもいいんじゃない?」
声高に主張はしないが、著者は「むなしいこと」にそっと心を寄せている様子が伝わってくる。
作家としては遅咲きだった、そのまま埋もれる可能性もあった、著者の意識がにじみ出たのかもしれない。
作中ずっと、耕作の描き方は、客観的でありながらも、どこか温かなまなざしであった。
読後感は悪くなく、からだに内側から力がみなぎってくるような前向きな気分だ。
日の目を見ない風呂敷包みでも、せめていっぱいにしてやろう。そんなことを思う。

(ビーケーワン投稿 2011.09.22 1096字)


この作品はミステリーではありませんが、やっぱり清張氏の作品ですから、いつも以上に内容を明かし過ぎないよう気をつけました。
ラスト近くの引用とそこに触れる内容は投稿する直前に削りました。
結果として、かなりわかりにくい文章になってしまった気がします。
伝えたい気持ちが空回りしているような……。
自転車のペダルを踏み損ねてスネにぶつけたみたいな気分。
書評って難しいなあ。

書評は不満足な結果でも、この作品に対する深い愛は変わりませんので、折々、読み返して行きたいと思います。

そして、予告!!!
この作品の舞台であり清張氏の故郷でもある、北九州・小倉へど~うしても行ってみたくなり、この夏、北九州文学紀行を実施しました!(道連れ;夫)
こんな高尚な?動機で旅するのは初めて♪
近々、その模様をアップする予定です。よろしく!




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導在 あわい

Author:導在 あわい
ドーザイ アワイ と申します。
ワケあって時間がたっぷり。いつかは読みたいと願っていた名作の数々…いますぐ、読むことにしました!
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